BENTO STAND オーナー 市部 真吾(いちべしんご)さん
オープン2カ月の「BENTO STAND」のオーナー市部さんからお話を伺いました。2013年に家族で東京から移住してきた市部さん、6年の島暮らしの中で、人とのつながりができ、求められていることが見えてきたので開業を決めたそうです。
移住5年目にして開業を目指す
東京から移住して島の黒糖焼酎メーカーで杜氏の仕事をしていたのですが、移住して4年くらい経った頃から、自分自身で開業したいと思うようになりました。
先ず、これまで経験してきた職歴、得意なことの棚卸し、成功例と失敗例の書き出しから始めました。
イタリア料理でのキッチン経験を生かして、飲食業をやろうと思いました。
1年半掛けて事業計画を作り、開業の意志を商工会に伝え、前職を辞める半年前に事業計画を提出しました。
事業計画を詰めていくうちに、店舗を構えてお客さんが来店するのを待つだけだと経営的に厳しいだろう、こちらから売りにも行ける弁当屋だったらやれると思いました。既に数店舗ある弁当屋さんにあえて挑戦することにしました。
DIY魂に火が着く
店舗の候補地は、人通り、立地を考えて4箇所に絞りました。大家さんには「1年後、お店を始めようと思っている。それまでに空いていたら貸してください」と1年前から交渉、今の場所に決めました。
内装工事は、自分達夫婦と友人の3人で2カ月掛けてやりました。
新しいもの、きれいなものをではなく不要になったものをかっこよく再利用したいという気持ちが強く、DIY魂に火が着いて楽しかったです。
例えば、余ったガス管をドアの取手に、店の床は元々敷かれていたカーペットを接がしたらボンドが残ってしまい、汚い感じもいいのではとクリアコートを塗って使っています。
厨房設備は、閉店する店舗の機器を1年半位かけて集めたものを再利用しました。
店名はシンプルに「BENTO STAND」
店名は、何をやっているかわかりやくシンプルがいいと「BENTO STAND」にしました。ロゴ、アイコン、オリジナルビニール袋は、デザイナーさんにイメージを伝えて作成してもらいました。
ビニール袋は、捨てられても自分達で回収できるように目立つ黄色にしました。通い袋で使われているお客さんもいらっしゃいます。息子が通っている子ども園では、子どもの達の着替え入れに再利用されているようです。
冷めても美味しい揚げ物を
弁当屋開業を決めてから改めて弁当が消費されている場面を観察すると、島の人たちは揚げ物好きだから揚げ物が多い弁当になっているのだと納得しました。揚げ物を否定するのではなく、冷めても美味しい揚げ物を作ろうと思いました。
早速、得意の唐揚げをサッカークラブの少年達に何度か食べてもらいました。その中の自称グルメな子が「この唐揚げジューシーだ!」の一声で、うちの唐揚げの味が決まりメニューの一つになりました。
ひとつひとつ自分の舌で確認
事業計画の段階では、食肉業者さんがどのランクの肉を使っているのかわかりません。値段は違うけど、冷えても美味しい肉、硬くならない肉がどの業者でどの部位かをわかるのに1カ月位掛かりました。
あつあつの時に食べる、冷めた時に食べるを業者と部位ごとに繰り返し、自分の舌で確かめて、この肉はこの調理だと美味しい、この部位はこの調理が適しているとわかるようになりました。
オープン前はあれもこれもメニューとして出したいと思っていましたが、時間とコストを考えると断念せざるを得ないメニューもあります。
彩りを意識した弁当
「BENTO STAND」の特長を出すために意識していることは「彩り」です。
野菜は、なるべく地元野菜を使うようにしています。地元産の美味しいトマトのB級品を仕入れて、自家製トマトソースに使っています。トマト畑まで行き「島トマトソースを作りたい」と生産者を口説きました。
知らない人、移住者との取引に抵抗があったようで、最初は取り合ってくれませんでしたが、今では時々店の様子を見に来てくれます。
今の時期は、閑散期なので1割くらい残る日が時々ありますが、ありがたいことに計画通りです。6月から、限定企業へデリバリーを始めました。
周りの人達の支えあっての開業
移住して間もない頃に開業していたら失敗していたと思います。6年間の島くらしで地域活動に参加し、知り合いが増え、島の状況がわかり、ニーズがわかった上での開業なので見通しはあります。
オープンして3カ月近くになりますが、島に来てからつながった仲間、周りの人達の支えがあったからこそオープンできたと実感しています。この人達がいなかったらオープンは無理だったなと思う場面がたくさんありました。
雇用創出、障害者が活躍する職場を目指す
将来は、オードブル、折り詰めの受注を考えています。そのためには、調理するだけ、詰めるだけの分業ではなく、「BENTO STAND」のAからZまでを担えるスペシャリストが育ってくれたらと思っています。
更に、「BENTO STAND」の味で信頼を得て、加工所からセントラルキッチンで配送する構想もあります。
加工所は、障がい者が対応できる態勢を目指します。移住して障がい者が身近になり、障がい者の自立の場があればいいなあと思ったのです。厨房で島野菜を下処理している時に、単純作業だけど味にも影響する大事なことなので、そこで障がい者に活躍してもらいたいと思いました。
開業という目標で障がい者が活躍する職場を作る夢を実現したいです。
※2019年5月取材